小社会 地ビール

作家にもビールには思い入れが強い人が多いとみえて、数多くのエッセーがある。文豪・鷗外を父に持つ森茉莉は、ミュンヘンの広々とした酒場の陽気な情景を描いている。 彼女の目に映る酒場には、日本のようにビールを飲みながら会社や家庭の話をしている人はいない。「唯(ただ)、麦酒を飲む人」がいる。〈日曜日に遊ぶことを許されている子供のように、独逸(ドイツ)人は社会からも、女房からも、神様からも、麦酒を飲むことを

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